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宇部市(山口県)

大きく、力強く。
日本を支える道の先。

2017/05/10

白い安全ヘルメットをかぶった若い女性たちが、カメラを片手に車窓の外に熱視線を送っている。見つめる先を通り過ぎるのは全長約30m、総重量約100tのトレーラー。その巨大な体を揺らしながら疾走していく姿に、歓声が上がる。このちょっと異様な光景は、産業の街として近代日本の発展を支えてきた山口県宇部市を中心とした観光旅「大人の社会派ツアー」の一コマの出来事でした。

日本一長い私道、その距離約30km。
今回参加したのは鉱山で石灰石が採掘される現場から、セメントになるまでをたどることができる『セメントの道』というコース。冒頭の場面は採掘した石灰石や、セメントの中間製品であるクリンカーなどを輸送するトレーラーの様子でした。ところで、このトレーラー、見ていてふとひとつの違和感を覚えます。自動車ならすべてについているであろうはずのナンバープレートが不在なのです。

「この道は宇部興産株式会社の、いわゆる『私道』なんです」と話してくださったのは、宇部興産の河野さん。1955年に建設された伊佐セメント工場は宇部市の工場まで直線距離にして北に約30km離れた地に存在すること、かつては伊佐から宇部までの輸送には主に鉄道が使用されていたこと、しかし国鉄時代にはストライキが頻発し、輸送コストも高かったことや単線で輸送力に限度があったこと、そして効率を考えた結果専用道路を建設したこと、内田康夫の小説『浅見光彦シリーズ』にも登場したことなどを、明快にお話しくださいました。「この道路は全長31.94km、最大4車線あり、映画のロケなどにも使用されています。私道なので道路交通法などの規制がかからないため、トレーラーにもナンバープレートがついていません」

古代遺跡のように美しい鉱山で。
『セメントの道』は道路やトレーラーに限らず、そのトレーラーさえも小さく見える工場群や、自家発電にも用いられる石炭の山など、すべてが規格外のスケールなのですが、もうひとつ特筆すべきは石灰石鉱山の採掘現場。眼前に突如現れるすり鉢状の鉱山は圧巻。乳白状のそれはまるで古代遺跡のように美しく、晴れた日には底に溜まった地下水や雨水が空の色を映して神秘的。対角を走る大型ダンプがまるで豆粒のように見えるほどの広大さに、思わず息をのみました。
有限の鉱業から、無限の工業へ。
「宇部興産はもともと海底炭田の労働者たちの組合からはじまった組織ですが、資源を採掘するだけではいつか終わりがやって来ます。だから私たちの理念は有限の鉱業から、無限の工業へ。今日ご案内したすべても、そんな思いで一つひとつ大きくしていったものなんですよ」

日本は本当に小さな島国? 迫力の光景の連続に触れて、そんな思いが頭をよぎりました。炭鉱上がりの逞しい男たちが築きあげたパワフルな街。どこまでも大きく、力強いエネルギーに溢れた場所。旅すると都会暮らしでは気づけない、自らの奥底に眠る力を取り戻せます、きっと。

文:白井千遥 写真:市岡祐次郎、三浦千佳

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