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高岡市(富山県)

山が動く、心が動く
高岡御車山祭。

2017/05/11

2016年11月30日、山・鉾・屋台行事の伝統を持つ日本の33の地域で歓声が上がりました。ユネスコ無形文化遺産登録。地域社会の安泰や災厄防除を願い、各地域の文化の粋を凝らした華やかな飾り付けが特徴の山車、それを守ってきた人々の姿が、芸術的多様性と創造性の例であると認められてのことでした。高岡市民が最も楽しみにしているお祭り「高岡御車山祭」もそのひとつ。伝統工芸の町として名高い高岡市らしく、御車山(=山車)のしつらえは「動く美術館」とも称されるほどの華やかさと聞きます。さて、時は2017年4月30日。本番を明日に迎えたこの日から「高岡御車山祭」を旅することにしました。

風情ある町並みに漂う、祭りの気配。
高岡駅に降り立ったのは午前10時。明日の朝に春季例大祭が行われる高岡関野神社の周囲ではじまっている出店の準備を横目に、御車山が練り歩く山町へ。漆喰塗りの土蔵造りの家が建ち並ぶ風情あふれる町では提灯や幕がかけられ、少しずつお祭りの気配が高まりつつあります。
主役である御車山は前日に蔵から引き出し、当日の早朝に組み立てられますが、通りを歩いているとすでに大きなテントの中で組み上がったものが一基。「鉾留(ほこどめ)」と呼ばれる御車山の最上部の飾りにたくさんの弓矢があしらわれた御馬出町のものでした。間近で見ると、山と呼ばれるのが納得の巨大さ。華やかな装飾を首を折るようにして見上げていると、御馬出町の会長で、祭りを運営する保存会の年番理事を務める吉田弥一郎さんが声をかけてくださいました。
「御車山は全部で七基あります。通町、御馬出町、守山町、木舟町、小馬出町、二番町がそれぞれ一基ずつ、源平町と三番町、一番町が共同で一基。坂下町は御車山でなく、先導する獅子をを持っています。うちの町と木舟町の山車は宵祭りのライトアップがあるから先に組み立てを済ませました」。さらに、祭りのはじまりは1609年であること、前田利長が高岡の町を開いた際に父の利家が豊臣秀吉から拝領した御所車を町民に与えたのがきっかけであること、天上にいる神を山に降臨してもらう古代信仰が元になっていること、といったお祭りのレクチャーも。ところで明日の天気予報は雨。どうするんですか?「いやあ、こればっかりは。雨だと中止なんだけど、ユネスコに登録されて偉い人もたくさん来るから、やれやれって言われてるんだけどね」と豪快に笑いました。
十二分に愉しむなら、宵祭りから。
日が暮れかかる頃にはじまるのが宵祭り。御馬出町の御車山に向けられたライトにも明かりが灯され、絢爛豪華な装飾がより輝きを増しました。この頃には観光客の姿も増え、御車山を間近で見、時に手を触れながら、世界に誇るその姿を胸に焼き付けています。御馬出町のほかにも、山を持つそれぞれの町では「山宿」に人形や幔幕が飾られ、町内の関係者や見物人たちで賑わいが。通りを歩いていると二番町ではちょうど、神様を迎え入れる「入魂式」が行われているところでした。神主が無事、魂が入ったことを告げたとき、通りに風が吹き込みました。まるで神様が体の横を通り抜けたような感覚。こんな不思議な体験ができるのも、このお祭りに足を運んだご褒美でしょうか。
御馬出町で奉納の巫女舞を眺めているときに出会ったのは、富山市内でジャズバーを営んでいるという妙齢の女性。聞けば毎年この日を楽しみにしていると言います。「明日は人が多くて大変よ。あなたは遠方から? のんびり、ゆっくり楽しむなら宵祭りに来て正解ね」。
お囃子、掛け声、車輪の軋む音。
一夜明けてやってきた本番の日。午前は雷が轟くあいにくの空模様ながら、午後には青空が。残念ながら時間とルートを大きく短縮しての巡行でしたが、それでも予報からすれば奇跡的。町には御車山を一目見ようと集まった人、人、人。町の人も「こんなに多いのははじめて」というほどの大盛況です。巡行がはじまると裃姿の山役員が周りを固め、近隣の町からやってきた曳き手が揃いの半纏と白足袋でゆっくりと練り歩きます。そして御車山の上には宵祭りで神様の魂が入った人形と、それを守る「花警護」の役割を担う子どもたち。「いいなあ、私も乗りたいー!」と駄々をこねる女の子に、「あれはね、男の子しか乗れないの」とお父さんがなだめる一幕も。だけど女の子の気持ち、よーくわかります。だって、御車山に乗った男の子たちのとっても晴れやかな顔! 見物客の中に友だちを見つけては、自慢げに手を振っています。
そして眺めるだけでも十分に楽しいお祭りですが、せっかくならば耳を澄ませてみるのもおすすめ。幔幕の中から奏でられる気品のあるお囃子、角を曲がるときの曳き手たちの力強い掛け声、そして車輪がギィーと軋む音。邪気を払いながら力強く進む御車山は、音でも訪れた人を別世界へと誘ってくれるのです。

御車山を守りながら、力強く曳きながら、上から手を振りながら、沿道で手を合わせながら。雨上がりの高岡の町に、たくさんの笑顔が広がります。「四百年つづいてきた理由は、やっぱり人なんじゃないかな」。昨日、吉田さんから聞いた言葉を思い出しました。「一年に一回みんなで集まって、手作りで山を組み立てて、神様を招いて、町を回って……。一度関わると愛着が湧くし、やめられないよね」。御車山に施された豪華な装飾も、そのほとんどが町民の富と、職人の技によるもの。四百年、人の手で育み、つないできたお祭りは、今も確かに人々の心を動かしていました。
この日、唯一の心残りは、時間短縮のためにクライマックスである七基の勢揃い式を見られなかったこと。これもまた、一年後に帰ってきなさいという神様の計らいなのでしょうか。よし、ならばきっと、いや必ず。夕陽に照らされる絢爛豪華な御車山を眺めながら、再訪を固く誓った旅でした。

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