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十日町市(新潟県)

越後妻有で見つけた、
里山とアートの素敵な関係。

2017/08/09

草間彌生「花咲ける妻有」 撮影:中村脩

山を支え、川を守り、空気をきれいにしてきた棚田、たくさんの生き物たちの住処となってきた里山……。越後妻有を旅すると、日本が美しい国であったことを思い出します。ここで2000年から3年に1度開催されている世界最大級の野外芸術祭が「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。青空の下の田畑や民家、廃校など、この地域の里山そのものが作品展示の舞台となるこのアートフェスティバルは、「東の大地の芸術祭、西の瀬戸内国際芸術祭」と呼ばれるほど高い人気。開催期間中には全国から51万人ものひとが訪れ、ガイドブック片手に里山の中を北へ、南へと巡ります。
さあ、越後妻有で楽しむアートな旅に出発。豊かな里山の中には開催期間外であっても大小合わせて200点もの作品が点在しており、いつでも自由に楽しむことができるんです。

イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」

里山の中に点在するアートたち。
越後妻有という名は正式な地名ではなく、新潟県十日町市と津南町を指す言葉。東京から2時間あまりで到着する豪雪地帯で、東京23区よりも少し広い美しい里です。
「この地域の人々は農業を通じて厳しい自然と関わりながら生活を営んできました」と話すのは、芸術祭を運営するNPOで広報を務める山口朋子さん。「そんな越後妻有が持つ自然や文化、食、農業、土木技術などさまざまな価値をアートを媒介として掘り起こし、その魅力を高め、そして世界に発信していく。それが大地の芸術祭です」と語ります。
この芸術祭が特徴的なのは室内空間だけではなく、空き家や廃校、田畑など、里山全体を作品の舞台にしていること。そのひとつを、芸術祭の拠点となる施設「まつだい『農舞台』」のテラスから眺めることができます。それはロシア人夫妻のイリヤ&エミリア・カバコフがつくった『棚田』という名の作品。「四月、輝く太陽」からはじまる、稲作の営みを詠んだ詩と、その向こうに広がる棚田、そして農作業をするひとを象った彫刻が重なって、まるで一枚の絵のように見えます。
また、じっとその前に立っていると雲の流れや太陽の傾きで少しずつ作品の色が変わっていくのがわかるのも里山を舞台にした作品ならでは。もしかすると気に入った作品の前で、何時間でも佇んでみるのも面白いのかもしれません。

ジャン=リュック・ヴィルムート「カフェ・ルフレ」(越後まつだい里山食堂)

河口龍夫「関係 - 黒板の教室」

内海昭子「たくさんの失われた窓のために」

窓の向こうに見えるもの。
まつだい「農舞台」とは信濃川を挟んで反対側、少し丘を登った先には「たくさんの失われた窓のために」(内海昭子)という作品があります。やわらかな芝生を踏みしめ、広場の中央に据えられた小さなステージに上がると、信濃川の支流・清津川から届く爽やかな風が頬を撫でました。前方へと視線を移すと、巨大な窓枠と揺れるカーテン。その向こうに広がるのは、旅の途中で何度も目にしてきた越後妻有の風景です。しかしこうしてフレームの中に収まると、また違った景色に見えるから不思議。山、川、棚田、集落、そしてまちを分断するかのように流れる何本もの送電線……。この作品は一体どうして、広い越後妻有の中でこの地につくられたのでしょうか。まつだい「農舞台」で見た「棚田」もそう、そしてこの「たくさんの失われた窓のために」もそう。越後妻有の作品たちは、その場所に足を運び、越後妻有の景色と一緒に見ることで、込められたメッセージが露わになるものばかり。そのためにアーティストたちは地域に通い、地元のひとと対話を重ねながら、作品づくりに励むといいます。
「もちろん、最初はぶつかることもあります。だけど、はじめは大反対していた住民が次第に協力的になって、最後にはアレは俺も手伝ってつくったんだって胸を張っているなんてケースもありましたね(笑)」

カサグランデ&リンターラ建築事務所「ポチョムキン」

作品巡りに疲れたら「ポチョムキン」でひと休み。
山口さんが「大好きな場所」と話して案内してくれたのは、倉俣という集落にある川沿いの林の中の公園『ポチョムキン』。つくったのはカサグランデ&リンターラ建築事務所です。
素材むき出しの鉄の仕切りの入り口を進むと、瓦礫やガラスの破片を敷き詰めた庭。その向こうにケヤキの巨木が並ぶ、真っ白な石庭が姿を見せます。鉄の壁で周りと適度に遮断されながらも、自然と緩やかにつながっていて、穏やかな気持ちになる。さらに奥へと行けば小屋があり、これまた自分だけの時間を過ごすのにぴったり。ここが芸術祭の期間中には作品巡りで疲れた来場者たちから、ひと休みするスポットとしても人気なのも頷けます。
また、地域の暮らしにも変化を与えているようで、地元のひとがふらりとやってきて時間を過ごすこともあるのだとか。個人的には高校生くらいの若いカップルが、とりとめもない話をつづけるのにうってつけだなあと思いました。

イリヤ&エミリヤ・カバコフ「人生のアーチ」 撮影:中村脩

このエリアを旅していると思いもかけず作品と出くわすことがたくさん。それらは風景に溶け込んでいながらも明らかに異質で、まるで別世界に突如紛れ込んでしまったかのような錯覚に陥ることもありました。
空調が整った美術館で、効率よく作品を見て歩くのとはまるで正反対。里山に点在する作品から作品への移動は決して楽とは言えず、何より夏は暑くて暑くて汗だくになります。だけどそれが新鮮で、楽しい。作品マップを頼りに不慣れな道を行く。草いきれのむっとする匂いと自分の汗の匂いが混じり合って、「この気持ちは何だろう?」と記憶を辿ると、そうだ、少年時代に時間も忘れて駆け回った夏休みと同じ匂いだ。越後妻有の作品たちを巡るのは、あの日の宝探しに似ています。大きな地図をにらみ、山を登る。茂みの向こうにまだ見ぬ何かが待っている。そして芸術家たちが隠したメッセージを読み取るとき、その旅はあなたの一生ものになっているはずです。

パスカル・マルティン・タイユー「リバース・シティー」

鞍掛純一+日本大学芸術学部彫刻コース有志「脱皮する家」

ジェームズ・タレル「光の館」

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