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菰野町(三重県)

"モノづくり"から、
地域を見てみる窯元巡り

2017/10/24

菰野町は鈴鹿山脈から染み出す湧水と温泉、豊かな原始林を有し、もともとある自然の恩恵を生かした、この土地にしかない“暮らしのかたち”をもっています。そんな町が誇る地場産業のひとつ「萬古焼」。生活の丈に合わせてつくられる土鍋やお椀、お皿などを主とした、地元の人たちにも愛される焼き物です。今回は、菰野町の萬古焼「菰野ばんこ」のさまざまな器に触れつつ、つくり手のひたむきな言葉をつむぎ、土地の魅力を感じる旅となりました。

そもそも萬古焼とは? 江戸時代中期に陶芸家・沼波弄山(ぬなみろうざん/2018年で生誕300年)が現在の三重郡朝日町にて開窯し、途中衰退した歴史があるものの、明治期は海外輸出に力を入れるなど、三重県から上質の器を世界へと広げています。土にペタライト=葉長石を混ぜ込むことで、陶器と磁器双方の性質を持ち、熱に強く、普段づかいのできる汎用性が特徴。ここ菰野町では現在、萬古焼の窯元7人衆が「菰野ばんこ会」を立ち上げ、それぞれの強みを生かしながら、「菰野ばんこ」のブランド化を模索しています。

「次の世代へ胸を張ってモノづくりの心を伝えられるよう、菰野ばんこを持続可能な産業にしていきたい」と語るのは、ばんこ会を引っ張る若手のひとり、「山口陶器」2代目・山口典宏さん。今回特別に、広い工場の中を案内いただきました。

萬古焼は大きく2種類のつくり方があります。石膏などの型に泥状の土を流し込んで整形していく方法と、機械や手を使って一つひとつ造形する方法。つくる器によって、素材も道具も異なります。工程はどの窯元もほぼ同じく、土の成形にはじまり、型や機械によってできたバリを取り調整、乾燥させたのち800℃ほどで素焼き。釉薬を塗り、1200℃以上の高温で13〜14時間ほど本焼きします。山口陶器は、自社でさまざまな器を開発・製造できるように、ほぼすべての機材を揃えているものの、全体生産数の半分は産地へ外注しているのだとか。

かつては、それぞれの工程を職人が分業制で担っていたのが、産業の縮小によって担い手が減り、技術伝達しにくくなっている現状。山口さんは、その状況をふまえ「つくり手のつくる環境も変わりつつあるなか、小さなコミュニティで経済を循環してゆくべく模索しています。ひとつの窯元ですべての工程を完結させるのではなく、得意なところへ外注していくことで産業自体をまわす体制も整えていかないと」と、大きな視点で萬古焼を捉えていました。

工場を見学させていただいた後、近所で運営されているブランドショップ「かもしか道具店」にもお邪魔しました。そこでは、自社商品はもちろん、ほかの窯元の器やデザイナーとのコラボ商品、グッズなどを販売。繊維の切れない生姜おろし器、1人用の土鍋、目の詰まらない胡麻すり器……などなど、実用性とシンプルなデザインを兼ね揃えた、一癖も二癖もある焼物が並びます。器一つひとつを丁寧に説明する山口さんの真摯な態度から、「職人はつくるだけではなく、使い手への届け方、伝え方も考えていかないといけない」そんな想いをもって、産業自体の構造にまで目を向け、活動されているのだと感じました。

次の松尾製陶所へ行く前に立ち寄ったのは、大日堂にある三重県指定史跡「竹成五百羅漢」。御堂の前に大小さまざまな石像が500体弱並ぶ光景は圧巻です。羅漢だけでなく閻魔大王、七福神、菩薩など、神仏混合も珍しい。お世話をする近隣の方々のご厚意もあって、本堂にある貴重な一対の「大日如来像」を拝観することができました。ここは住職がいないため、地元の人が自分たちで管理し、毎週日曜にはご開帳しているのだとか。

製陶所へ向かうと、ちょうど軽トラでやってきた代表の松尾徹也さん。松尾製陶所は、古くから続く石膏型を用いて、「蚊遣り豚」の製造も行なっています。夏はやっぱりこれ!というあの可愛らしい形のものから、顔の表情が豊かなもの、豚ではないものまで大小さまざま。「絵柄についても、いろいろと実験しながらつくっているんよ」と嬉しそうに語る松尾さん。事務所の2階には、実験的につくってみたという蚊遣り豚や器、急須などがところせましと置かれていました。

工場では器を製造するほか、地元の小学生たちが見学に来て、器づくりに触れる機会を設けています。10年前から菰野町にある小学校5校へ出講し、土の扱い方から器の成形方法まで、授業の中でも教えるそう。「大変だけどな。2時間くらいで、俺には考えもつかん、すごいのつくりよる。びっくりするし、おもしろい。明日も午前中から学校や」と終始笑顔の松尾さん。地元の人たちへ向けて、萬古焼を身近に感じてもらい、子どもたちの創造する力を引き出す、そんな役割を楽しみながら引き受けている印象でした。

最後に訪れたのは、ばんこ会のまとめ役でもあるクラフト石川・石川哲生さんの工場兼直売所。奥さんと2人、時々娘さんが手伝う体制で、依頼主の要望にデザインで応えていく、個人経営の強みを生かした小回りのきく働き方をしています。「もともと別の窯元で働いていたのを、25年前に独立。私らがやっているのは『たたらづくり』と言って、石膏の上に土をかぶせて叩きながら成形していく工法です」と石川さん。土や釉薬の質感を生かした素朴な器は、生活にそっと寄り添う、魅力あるたたずまいをしています。

また最後に、ばんこ会のまとめ役として、石川さんが今考えていることも聞いてみました。「7つの窯元がそれぞれの役割・視点で、萬古焼の未来を“心配”し、考え続けることができています。馴れ合うのではなく、同じつくり手としてライバルでもある。改善したら良いことはすぐ実行できるし、個々でできないことは適材適所に振り合えるような良い関係が築けているように思います」。

萬古焼を通して、異なる世代のモノづくりの担い手が、それぞれの立ち位置から地域の未来を考える、そんな姿をこの旅では垣間見ることができました。彼らが日々模索し、行動へと移していくことで、変化し続ける伝統産業「菰野ばんこ」を、今後も見ていきたいと素直に思います。今秋も、ばんこ会主催の「窯出市」が三滝川河川敷で開催されるようです。ぜひ、つくり手の言葉に直接触れてみてください。

文:永江大 写真:阿部大輔

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