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粟島浦村(新潟県)

粟島浦村で見つけた、
そ〜そどな島じかん。

2017/10/26

日本海にぽつんと浮かぶ、新潟県の小さな島・粟島。コンビニもなければ、ATMは島にひとつのゆうちょ銀行だけ。消防士も、病院に常駐するお医者さんも、観光シーズンを除けばなんと警察官もいない。携帯電話の電波がつながりにくい場所があるのは当たり前で、信号機は島中探してもひとつだけ(これ、島の子どもたちが本土に渡ったときに、交通事故に遭わないように訓練するためのものだそう!)。聞くひとにとっては、なんにもない島。だけどここには透き通るような青い海に、力強く息づく草木、そして島に暮らす人々の温かさがたくさん。
対岸の新潟県村上市からフェリーに乗って約一時間半。「そ〜そど(島の方言で『ゆっくり』)」な島じかんを、楽しみに出かけました。

島外不出の石で煮込む漁師飯に感動。
旅のはじまりは、新潟県は村上市にある岩船港から。乗船名簿に名前を記し、フェリーに乗り込めば前日地面を濡らした雨はすっかり上がり、まさに秋晴れの空。波は少し高いものの、頬を撫でる潮風は爽やかそのもの。デッキに顔を出すと、一羽のカモメがひらりと旋回して彼方へ飛んでいきます。ああ、この旅はきっと忘れらないものになる。そんな嬉しい予感で胸をいっぱいにして、いざ日本海の離島、粟島へと出発です。

船の旅は約一時間半ほど。本土での用事を済ませた島民、長短何本もの竿を携えた釣り人、島にはいささか不似合いなスーツ姿のビジネスマンたちにつづいて港に降り立つと、秋の新潟とは思えない暖かさ。出迎えてくださった役場の方たちへのご挨拶を済ませて、まずは腹ごしらえへと「あわしま食堂」へと向かいました。粟島を訪れたなら必ず食べたいのが名物「わっぱ煮」でしょう。杉を曲げたつくった器「わっぱ」の中に焼き魚と酒、味噌を入れてお湯を注ぎ、真っ赤に焼いた石を落とした漁師飯です。
「鍋がなくても調理できるのが、この料理。昔は漁から戻ってきた男たちが、ご飯を詰めたわっぱの蓋の方に獲れた魚をつかってつくっていました」と教えていただいたのは、粟島浦村の本保建男村長。「冷えた体を温めるための熱燗も、同じように石を入れてね。これがまた、なんとも言えない味になって美味しいんです」といい笑顔を見せてくださりました。

さて、百聞は一見に如かず。目の前に出てきたそれは豪快そのもの。器の中で盛大に煮立って、湯気が一気に立ち込めます。火傷しないように口の中へと運べば、お味噌汁に近いのかと思っていたけれど、焼いた魚から強烈な出汁が出て、唯一無二の絶品料理!ここまでおいしいとあればなんとか家でも、と思ったけれど、わっぱ煮に使われる石は特別なものだそうで……。
「この石は高温にも耐えられる玄武岩です」とは、島の観光協会で働く松浦さん。「島の海岸では普通に転がっているものですが、島外に持ち出すことはできません。島全体が県立自然公園に指定されていることもあって、海岸の地形を変えるような行為は禁止されているんですよ」
絶品にして、貴重なわっぱ煮。虜になること、間違いなしです。

潮風の牧場が育てる馬、鶏、子どもたち。
釣りやカヤック、海水浴に海辺のキャンプ……、島というだけあって海辺のレジャーに事欠かない粟島。その一方で起伏に富んだ地形は、それ以外の遊びも旅人にプレゼントしてくれます。たとえば、のんびり島を巡っているとバードウォッチングに勤しむひとの姿がちらほら。また、フェリーが到着する内浦地区には牧場があり、ひき馬体験などを楽しむことができます。ここにいる馬や鶏の飼育を担当するのは、島で暮らす小学5年生〜中学3年生までの子どもたち。夕暮れ時、授業を終えた子どもたちが自転車を駆って集まってきました。それぞれが持ち場につき、当番になった馬の毛並みを整えはじめると、昼間の学校で見せてくれたあどけなさが残る面影から一転。たちまちキリッとした大人の顔に変わります。この日、調教役を務めた愛莉ちゃんは大きな鞭をしならせながら、「頑張れ、頑張れ」と馬のハヤテを鼓舞。上手にバーを飛び越えられられたときに「よしっ!」と拳を握る姿は、もう一人前の調教師のそれを見ているかのよう。そして、乗馬のトレーニングに励む少年ふたりは、大地を駆ける馬の上で力強くリズムを刻んでいます。

ここで牧場スタッフの明星さんは語りました。「牧場にやってくるのは島の子たちだけでなく、馬の世話をしたい子、親元を離れて自然の中で生活したい子、環境を変えたい子などいろいろ。朝晩欠かさず世話をするのは、馬が可愛いじゃできません。体力だって要るし、子どもたち同士でぶつかることだってある。だけど、みんなそれを乗り越えて、一年かけていい顔になっていくんです。馬に乗るなんて、そこらへんの大人だってできることじゃない。自信にもなりますよね」

海の男はやさしくて、格好いい。
まだ陽が昇りきらない午前5時。漁港を訪れると、漁師たちが船を出す準備をしていました。この日の目当ては、漁船に同乗しての「大謀網漁」の見学です。実は前夜、この場所で酒宴を開いていた漁師の皆さんにばったり会っていて、すでにビールをご馳走になっている私たち。顔見知りになった漁師たちを見つけては「よろしくお願いします!」と声をかけて回ります。「おう!」と応えてあげる腕は、肌寒い早朝にも関わらずTシャツからむき出しで、逞しい。アウターを着込み、カイロまで背中に貼り付けた自分たちがなんだか恥ずかしくなるような男らしさに溢れています。
午前5時半、朝日に染まる海へと船が出ました。漁の成果を祈ってか、腕を組んでじっと海面を睨む男たち。定置網を仕掛けたポイントへ錨を下ろすと2曹の船、10人以上の漁師たちが大きな網をぐいぐい力強く絞っていきます。「ほら、手伝え!」の声をいただいて、その輪の中に飛び込みます。一心不乱に網を手繰り寄せると、突如魚たちが姿を見せ、上空に集まったカモメが体中で喜びを表しました。クレーンを使って船上へ魚を揚げるとヒラマサ、ワラサ、マダイにキジハタなど、高級魚が次々と。網からこぼれた小さなアジはカモメの群れにおすそ分け。漁の成果を自然の生きものたちと分かち合う。その姿がとっても格好いい。
港に戻ると、男たちの帰りを待つ人々の群れが出迎えました。「今日はサッパリ」と苦笑いを浮かべながら、「ヒラマサあるよ」と成果を報せる漁師たち。水揚げされた魚は直売を経て、すぐに本土へと出荷されていきます。
陸に戻った男たちは、皆陽気です。成果が芳しくなかったからといって、くよくよしない。相手は自然だから、その日その日の恵みにただ感謝するだけ。そんな気概が感じられて、こちらも朗らかな気持ちになりました。粟島に滞在したら、ぜひ早起きして朝の漁港に足を運んで欲しいと思います。市場に出回るよりも先に、新鮮な幸を手に入れられる、とっても贅沢な時間が待っていますよ!

島外から車の乗り入れはできないから、島での移動はもっぱら徒歩が中心。しかし、潮風を感じながらのこれがまた心地よく、足取りはどこまでも軽やかになります。そして、道すがらに下を向いて歩く人はおらず、出会うあや(お父さん)、んっぽん(お母さん)が「おはよう」「こんにちは」と挨拶をくれる。気づけば携帯電話がつながりにくい不便さも、ATMがひとつしかないことも忘れ、ただただ島が好きになっていました。帰りのフェリーに乗り込んでデッキから島を振り返れば、たくさんの大漁旗が揺れていました。出港を告げる大きな汽笛が、こんなに寂しく聴こえるなんて。たなびく旗に負けないくらい大きく腕を振って、またここに帰ることを誓った旅の終わりでした。

文:白井千遥 写真:市岡祐次郎

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