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菰野町(三重県)

自然の豊かさを胃袋で、
文化の豊かさは全身で。

2017/10/30

映画「男はつらいよ」シリーズ第3作『男はつらいよ フーテンの寅さん』で主人公・寅さんが訪れた菰野町の名スポットと言えば、鈴鹿山脈に連なる御在所岳と、その麓にある湯の山温泉。どちらも観光地として全国的によく知られています。今回の旅は菰野町の「食」を通して、土や水、森、生き物……といった古くからこの地にある自然循環の中で、今を暮らす人々やその生業も生きている、そんなある意味当たり前の風景と出会う機会となりました。随所に寅さんの気配を(勝手に)感じ取りながら、菰野町の食を巡る旅、スタートです。

午前10時、近鉄菰野駅に降り立つとそれまで散々降っていた雨も止み、流れの早い雲の切れ目からは青空がのぞく、絶好の旅日和。まずは車で、菰野町唯一の酒蔵・早川酒造を訪ねます。駅から20分ほど北上し、広がる田んぼに稲が垂れつつあるのを眺めていると、農地に囲まれた早川酒造へと到着。普段、酒蔵見学などは受けていないところを特別に、早川酒造4代目・早川俊人さんからお話を伺うことができました。

早川酒造は、1915年(大正2年)創業。現在、すべて純米醸造・木槽搾りの酒造りをご家族で経営されているそうです。三重県が独自に開発した酒米品種「神の穂」や、栽培特性的にも育てるのが難しい「雄町(おまち)」、そして酒造りのスタンダード「山田錦」といった酒米から、自社銘柄「田光(たびか)」「早春(そうしゅん)」を毎年仕込んでいます。

「東京農業大学を卒業してから山形へ酒造りの修行に行き、10年ほど前に実家へ戻ってきました。その経験を生かして、この土地の新しいお酒をつくりたい。そんな想いから開発したのが、地域名でもある『田光』です」と早川さん。酒造での直接販売はしておらず、必ず信用できる特約店に卸して、自分たちは“つくること”に専念しているのだとか。「お米をつくる農家、豊かな水を研ぐ鈴鹿山脈の自然、そして酒造に関わる人たち。この3つがあってやっとお酒をつくることができます。毎年、安心して飲んでもらえる、菰野町の顔になるようなお酒を目指しているんです」。

限られた場所・お店でしか味わえない銘酒。いただくのはまたのお楽しみとして、次は佐藤ピッグファームが育てる菰野町産まれのブランド豚肉「菰錦豚(こもきんとん)」を味わうため、菰野町に近い四日市市郊外にある農場レストラン「こぶたの家」へ。平日にもかかわらず、家族連れも多く、満席と大好評です。隣接するお肉屋さん「ピギーパーラー」には、ブランド豚の精肉や各種お惣菜が並んでいます。農場オリジナルの、酒粕を混ぜた飼料で育てられた三元豚(LWD)の中でも、選ばれし5%の雌豚が菰錦豚として出荷されているのだとか。肉質の柔らかさ、甘みを帯びた豊潤な味わいは、レストランのほうでじっくり堪能させていただきました(絶品)!

お腹が満たされた後は、国定公園にも指定される鈴鹿山脈・御在所岳へ向かいます。もともと「菰野山」と呼ばれ、古くは山岳信仰の修行場として、日照りの際には山頂の「竜神池(=長者池)」に祈願し雨を乞う神聖な場として、地元の人たちから大切にされてきました。また、火山活動と断層にはさまれて隆起し、できた山には、 負れ岩、地蔵岩、大黒岩、藤内壁などと呼ばれる花崗岩の巨岩、奇岩があちこちに。国の特別天然記念物・ニホンカモシカをはじめとする多種多様な動植物の生息地でもあります。

山の麓の「湯の山温泉」までは車で。そこからは1959年創業の「御在所ロープウェイ」に乗り、山頂近くの尾根まで約12分。日本一高い白い支柱(高さ61m。20階建マンションくらいの超高層建築と同等!)付近は、遠く伊勢湾を見渡し、足元には太古からの森、そして温泉街が広がる、これぞ絶景と言える景色を見ることができました。寅さんが、住み込み先の旅館女将・志津の娘、道子を連れて楽しそうに外を眺めていたことを思い出します。

山頂へは観光リフトに乗り継いで10分ほど。三重県、滋賀県の県境にあって、琵琶湖も遠くに見える望湖台や富士見岩展望台、ございしょ自然学校、長者池など、ゆるやかな尾根沿いにさまざまなスポットがあります。今回のように天気の良い日は、のんびり歩きながら景色を楽しむのも乙なもの。ただ、山の天気は変わりやすいので、防寒具は必須です(下山した寅さんは、風邪をひいて宿で寝込んでいました)。

さて、大自然に触れた後は、湯の山温泉近くに最近オープンした複合施設「アクアイグニス」で一休み。現在着工中の、京阪神へとつながる高速道路沿い、周囲には農地といった環境で、食を軸に源泉かけ流しの天然温泉やいちご狩りなどが楽しめる、おおらかな場所です。「もともとあった温泉施設に変わる、地元の人にも親しまれる場をつくろうと、食・建築・デザインなどの異なる専門分野を持つクリエイターが集まりました。中央のいちご園も、昔からこの土地で栽培されていた農家さんと一緒に運営しているんですよ」と、マネジャーの吉田さん。地域の営みを残しつつ、外から来た人が宿泊もできる、行き届いたサービスを提供しています。

併設するカフェでお茶をしばきながら、同行いただいている菰野町役場・東村さんと話していると、ちょっとした疑問が浮かびました。菰野町の特産品で、名前の由来にもなっているマコモタケとは……? 寅さんなら「気になったら、てめえで調べろ」と言うでしょう。東村さんがマコモタケの農家さんをご存知だというので、その正体を見てきました。

“タケ”と言うくらいだから、キノコを想像していたら、着いたのは田んぼ。すでに稲刈りを終えた裸の田が並ぶ、その端のほうに、背の高めの植物が集まってありました。「これです」と東村さん。高さ2m近く、茎も太いところで手首くらいあり、ジャンボな稲といった印象です。「真菰筍」は、イネ科マコモ属の多年草で、根本の部分を切り出し、浅漬けや天ぷら、炒め物など、いろんな食べ方ができるとのこと。菰野町ではこの時期、お店や道の駅などで販売されているようです。本日の宿、湯の山温泉「寿亭」で食べられるというので、日も暮れてきたことですし、旅の最終地点を目指します。

寿亭は、鈴鹿国定公園内の湯の山温泉にあり、御在所ロープウェイにもほど近い温泉宿です。かつては文人や皇族の方々も宿泊された文化庁登録有形文化財「水雲閣」を有し、露天風呂や貸切風呂各種、地域の食材を活かした地元料理も堪能できます。到着して早々ですが、「真菰筍」を使った惣菜や、猪肉とオリジナルの赤味噌がからむ「僧兵鍋」のコースをいただくことに。

真菰筍は、まさに筍のような食感で、料理によってその味わいも変幻自在。僧兵鍋には、三重県伊賀産の猪肉と、鹿つみれ、奉納伊勢鶏、そして舞茸やこんにゃく、豆腐、里芋などなど、さまざまな具材が入っています。オリジナルの赤味噌にからめて食べると体の芯から温まってみなぎってくる力強い一品。辣油と山芋の味噌との相性も抜群で、ずっと食べていられる気持ちになりました。毎年10月に湯の山温泉で催される「僧兵祭り」という火祭りにあやかって付けられたご当地鍋。秋の紅葉、冬の静かな季節に温泉とセットで、味わってはいかがでしょうか。

明朝、宿の周辺を散策しながら、三滝川の渓流沿いを歩いていると、寅さんが志津の弟・信夫と決闘しかけた石橋を見つけました。老朽化のため渡れはしませんでしたが、一帯は石造りの橋や立派な石垣、寺社仏閣、この地に馴染む建築がいまなお風景に残っています。今回の旅では、鈴鹿山脈の山々や森に育まれた水、農作物を味わいながら自然の循環を胃袋で感じ、この土地に新しく根付いていく活動や、古くから大切にしてきた営みといった、文化の循環の一端も見聞きすることができたように思います。旅の大先輩・寅さんの菰野町での物語も、ぜひどこかで何かの機会にのぞいてみてください。

文:永江大 写真:阿部大輔

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