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薩摩川内市(鹿児島県)

西郷どんゆかりの
「古き良き」を巡る

2018/01/08

5つの市町と甑島列島4村が合併した薩摩川内市は、それぞれの地域に特色ある歴史と風土が根付いています。また、2018年の大河ドラマ「西郷(せご)どん」の主人公である西郷隆盛の故郷鹿児島にあって、市内には西郷どんゆかりの地も多く残っています。今回はそんな中から、様々な時代の良さを感じる薩摩川内の「古き良き」を巡る旅へと出かけましょう。

入来麓武家屋敷群

村に息づく武士の魂
「昨日まで雨だったんですけどね。いい天気になりました。」
そう言われて見上げた空は、雲ひとつない快晴。言葉をかけてくれたのは、この日私たちを案内してくれる薩摩川内市役所の鮫島さんです。晴れの日の喜びを分かち合い、幸先のいい旅の始まりに胸を躍らせながら向かった先は、川内駅から東方15キロほどの場所にある、入来(いりき)は麓(ふもと)地区の武家屋敷群。石垣としては珍しい、川の自然石を積み上げてつくられた「玉石垣」が特徴的なこの地区は、中世から江戸時代にかけて、入来院という一族が支配したかつての荘園でした。
今でも当時の面影を色濃く残すこの地域では近年、入来麓の人々の暮らしぶりや様々な体験プログラムからこの地に息づくサムライの魂を感じる「サムライツーリズム」なる新たな観光プログラムを展開中です。
拠点となる案内所に私たちが到着すると、お客さんが着物姿へと変身中。「着物に着替えて、案内所が閉まるまでであれば自由に集落内を散策することができます」。薩摩川内市観光物産協会の宇田川さんが、音声ガイドを準備しながらそう教えてくれます。せっかくの機会なので、私たちも一緒に散策させていただくことに。

玉石垣

ゆっくりと武家屋敷群の中を歩くと、感動するのはその街並みの美しさ。地域に代々受け継がれてきた武家屋敷が立ち並ぶ情緒ある風景は、どこでも味わえるものではありません。また、玉石垣の美しさもさることながら、ゴミひとつ落ちていない道のきれいさにも驚きます。「住民の方々が、毎朝きれいに掃き掃除をしているんです」と宇田川さん。いつ誰がきても、入来麓のきれいな街並みと、特別ではない、日々の営みとしてのその行為には、ここで暮らす住民としてのひとつのプライドの形をみることができます。さらに周りをよく見れば、生垣や庭に植えられた樹々の一本一本まで行き届いている丁寧なお手入れ。ひとつひとつの作業が積み重なってつくられる武家屋敷群全体の景観から、人々の生活に根付くサムライの精神をひしひしと肌で感じるのでした。

ちなみに散策の際には、清色城跡の「堀切」もぜひみてほしいところ。山城であった清色城には、外から敵が容易に侵入できないよう人工的に作られた溝のような通路があります。ここでの見どころはその巨大さ。「どうやって掘ったの?」と思わず突っ込んでしまいそうなほどの高さの堀切に圧倒されること間違いなしです。
ひと通り集落を歩いて戻ってきた観光案内所では、竹箸や畳のコースターづくりなどを体験できるほか、事前に予約すれば郷土料理やそば打ち体験など、この地に根付いてきた文化を体験できるプログラムを楽しむことができます。体験プログラムは地元の方が受け入れを行うものも多く、地域の方とのふれあいによって、ここにしかない日本の田舎らしさを感じられることが魅力なのだそう。どうせなら、入来でしか味わえない田舎らしさを存分に味わいつくしたいものです。

堀切

おかぁのおもてなしに、ほっと一息
麓地区での散策を終え、お腹が空いてきたところで、武家屋敷群の中に佇む小さなカフェ「IRIKI hearts(いりきはーつ)」に向かいます。築100年になる古民家を利用したこのカフェを切り盛りするのは、「麓のおかぁ」こと税所真美さん。入来を訪れる人たちに心(heart)を込めたおもてなしをしたいと、2017年3月からお店を始められました。ここでは地元の食材をふんだんに使った食事を楽しむことができるほか、飲み物とともに税所さん手作りのお菓子をいただきながらひと休みする場所として立ち寄ることもできます。

税所さん

私たちがお昼ご飯にいただいたのは、IRIKI hearts特製の「せごどんぶい」。せごどんぶいとは、西郷隆盛の好物であったとされる豚肉と、西郷自身が作るのが得意だったと言われている味噌をつかった薩摩川内市のご当地どんぶりのこと。市内5店舗で提供されるせごどんぶいは、お店によって具材や味付けが異なります。IRIKI heartsが提供するのは、西郷どんが横たわった姿に見えることから「寝西郷」として人々に親しまれ、地域のシンボルとなっている愛宕山をイメージした「寝西郷丼(ねさいごうどん)」。入来特産のキンカン入り味噌だれを使って焼いた豚肉と、その上にこんもりと盛られた水菜が愛宕山を表現。錦糸卵やミニトマトで見た目にも鮮やかな寝西郷丼は、キンカンの爽やかさが味噌とほどよく調和した絶妙な味のバランス。ボリュームもほどよく、女性にもおすすめです。「いろんな食材を食べて健康な体をつくってほしい」という税所さんの愛情がたっぷり詰まったせごどんぶい、あなたもぜひ一度ご賞味あれ。
ちなみにこの日は、週に一度お手伝いにきてもらうという税所さんのお母さんもご出勤。税所さんとともに、素敵な笑顔でおもてなしをいただきました。
IRIKI heartsでひとときの安らぎを味わったところで、次の目的地へと向かいます。

寝西郷

ここにしかないものづくりに出会う
次に向かったのは、とある工芸品の製作現場。実はこの工房、西郷隆盛本人というよりも、大河ドラマや時代劇と深〜い関係があります。工房の中に入ると目に飛び込んでくるのは、色とりどりの紐や布地。なにやらヘルメットのような被り物も。鉄板を叩く音や電気工具の音に混じってラジオが鳴り響く傍で、従業員のみなさんがもくもくと作業に取り組んでいます。一体なにがつくられているのでしょうか。

もうわかりましたか?この工房で作られているのは、誰しも一度は目にしたことがあるであろう「甲冑」です。1958年に釣り竿メーカーとして設立された丸武産業は、創業者にして現在の会長である田ノ上忍氏の趣味が高じて甲冑メーカーに転身。現在は「甲冑工房丸武」として看板を掲げ、その技術の高さを生かして日本はもとより世界各地に作品を届けています。驚くべきは、業界でのそのシェア率の高さ。実は、高度な技術と豊富な知識が要求される甲冑づくり業界にはほとんど競合と呼べる企業はなく、TVや時代劇、お祭りなどで私たちが目にする甲冑のほとんどが、甲冑工房丸武で作られたものなのです。

「日本や世界中で使われているものが、ここ鹿児島県の薩摩川内市で作られているということ自体が私たちの強み。他の業者では作れないものがここにあるわけですから」。そう話してくれるのは、甲冑工房丸武の総務部長である田ノ上智隆さん。現会長のお孫さんにあたります。
お話を伺った部屋の隣の座敷には、甲冑工房丸武がこれまで手がけてきた甲冑がずらりと並びます。その姿はどれも荘厳そのもので、島津義弘や島津貴久のものをはじめとした戦国武将たちの鎧兜が並ぶ光景は圧巻。ですがこの出来栄えをもってしても、甲冑工房丸武のこだわりを出し切れたレベルにはないと智隆さんは話します。「やはり、お客さんが買われる金額には上限がありますから。(金額的に)うちが本当にこだわりをもってつくることができるのは、博物館に出すレベルのものですね」。希望される金額との兼ね合いから、すべてのこだわりを出し切ることはなかなか難しいという智隆さん。それでも常に「本物」を目指すことは外したくないといいます。「例えば、伊達政宗の兜は62枚の鉄板をくっつけた『六十二間筋兜』が本来の形。それを知らない人は、三日月がついていれば伊達と言ってしまうけど、本当はそれは違うでしょと。売れればなんでもいいということじゃなくて、鹿児島の職人さんがつくる日本のものなので、そういうところへのこだわりというのは大事にしていきたいです」。

2019年頃には、甲冑製造工場や展示館、体験スペースなどが一体になった施設をオープンする予定だという甲冑工房丸武。甲冑づくりだけでなく、薩摩川内市全体の盛り上げ役としても活躍してほしいですね。

現代の甲冑師に出会うことができた午後。世界の甲冑業界は、鹿児島にある小さな工房が支えていました。

ひなびた温泉街でレトロに浸る
この日の旅の最後に訪れたのは、薩摩川内市の北西に位置する川内高城(せんだいたき)温泉です。
川内駅から車で北へ30分ほど、市内から山道をひた走ると突然現れる小さな温泉街。そのなんともいえないノスタルジックな佇まいを前にして、「おぉ〜!」と思わず歓声があがります。
古くは鎌倉時代頃から続くと言われるこの温泉地は、鹿児島県内では霧島温泉、指宿温泉と並んで名湯百選に選ばれるほどの名湯。かつては多くの湯治客で賑わいました。「泉質がいいというのはどこの温泉地でも言われることだけどね。ここは弱アルカリ単純硫黄泉、美肌効果があって、石鹸もいらないと言われるくらいの温泉です」。お話を伺った、せんだい高城温泉よか湯協議会会長の井龍修さんが少し照れくさそうに教えてくれます。「うちは鹿児島県内で唯一のレトロでひなびた温泉地。この街並みはぜひ写真に撮っていってほしい」。大正時代にできたと言われる風情溢れる街並みは、この温泉街の自慢のひとつ。カメラを持って散策するだけでも楽しめてしまいます。

川内高城温泉は、今回の旅の中では特に西郷どんとつながりの深い土地。幕末から西南戦争へ出陣するまでの間、うさぎ狩りと温泉をここで楽しんだと言われています。西郷どんが特に好んで入ったとされる共同湯もまだまだ現役。地元の常連客をはじめ、全国の温泉好きに愛される川内高城温泉の名スポットです。共同湯に限らず湯治宿でも立ち寄り湯が可能なので、レトロな温泉街での湯めぐりもぜひ楽しみたいところ。

かつては湯治客で賑わった川内高城温泉の宿には、湯治客が食材を持ち込んで自炊するための昔ながらの共同炊事場を持つ宿も少なくありません。井龍さんが営む「高城の湯 山桜桃(ゆすら)」も例外ではなく、そこでのお客さんとのコミュニケーションも楽しみのひとつだといいます。「ぼくが焼酎を好きなのを知ってるのか、炊事場にいると声をかけてくれる。最初は遠慮するんだけど結局一緒に飲んじゃう。温泉にきて温泉に入らずに帰ってしまうお客さんもいるね(笑)。」

西郷どんも惚れ込んだ良質な泉質、風情溢れる街並み、人々との心地いい交わりと語らい。たっぷりと旅の魅力が詰まった川内高城温泉で、この日の旅が終わりを迎えます。宿をあとにしようとすると、「にいちゃん、またな!」と声をかけてくれた常連のおじさん。あぁ、あなたがいるから、やっぱり旅はやめられません。また会いに、遊びに来ますね。

文:高橋要 写真:市岡祐次郎

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