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薩摩川内市(鹿児島県)

大地の模様、海の幸、
ロマン咲く甑島のたび。

2018/01/08

薩摩摩川内市での旅といえば欠かせないのが、上甑島・中甑島・下甑島の三島からなる甑島。人口約4,600人の小さな島は、薩摩半島から西へ約30キロの海に浮かびます。手つかずの自然と、太古の地層。大地の雄大さの中に、それでも確かにある島の人々の生活。渡航を前にして、これから目の当たりにする島の暮らしの文様に、胸を膨らませます。船旅の先に見える景色は、果たして。

壮大な景色を存分に。
川内川の河口に位置する川内港から高速船で移動します。やんわりとした朝もやのかかる本土の山々を見送り、甑島へと私たちを運びます。今回の旅の案内役は、薩摩川内市役所の梶原さん。上甑島出身の、心強いナビゲーターです。
出発から50分ほど経てば、いよいよ上陸のとき。上甑島の入り口である里港に到着すると、少し奥の港に見えるたくさんの漁船。この島の営みが、海とともにあることをさっそく実感します。手配していただいた車に乗って向かったのは、トンボロと呼ばれる珍しい地形を展望することができるスポット。まずは、甑島の様々な景色を楽しんでいきます。
トンボロ(陸繋砂州)とは、海流や波の影響によって堆積して水面上に細長く現れた砂れき(砂州)が、島と島をつないだ地形のことをいいます。上甑島の入り口である里町の中心部はこのトンボロの上に集積しており、長い時間をかけてできたわずかな幅の陸地の上に家が立ち並ぶ姿は、私たちをなんだか不思議な気持ちにさせてくれます。

甑島の景勝地といえば、細長く並んだ3つの池と海を隔てる砂州が4キロに渡って続く「長目の浜」もまた、神秘的で珍しい景色のひとつ。国の天然記念物にも指定されています。3つの池はそれぞれ池の深さや塩分濃度、透明度や生息する生物の種類までが異なるといい、貴重な生態系をもつ場所でもあります。長目の浜展望所から浜を見下ろせば、砂州の全景とすべての池を確認することができますよ。

ユニークな地形が次々と現れる甑島。さらなる絶景を求めて、私たちは中甑港へと車を走らせます。目的は、観光船かのこに乗って断崖と奇岩をめぐる「甑島断崖クルーズ」。上甑島から下甑島の西海岸を約1時間40分かけてクルージングし、最大で海上200メートルもの断崖をみることのできる大迫力のツアー。甑島にきたら欠かすことのできない体験のひとつといっても過言ではありません。さっそく角昭久船長の操縦する観光船かのこに乗り込み、クルージングへと出発です!

中甑港を出発するとすぐ、甑大明神橋という全長420メートルの大吊橋をくぐります。上甑島側の橋のたもとには甑(せいろのこと)の形をした大岩をご神体とした甑大明神が祀られており、これが甑島という島名の発祥と言われています。「なるほど」などと感心したのも束の間、この橋をくぐった先に待っていたのは、私たちの想像を超える絶景でした!

鹿島断崖、コガミアイ、壁立などと呼ばれる100〜200メートルのそびえ立つ断崖に、すれすれまで近づいていく観光船かのこ。岸壁まであと数メートルというところまで近づくと、反り返った断崖が頭上に現れ、今にも崩れ落ちてきそう。見上げた断崖はもはや高さを感じることもままならず、ただただその大きさに圧倒されるばかり。しかも、目の前の断崖にはくっきりと地層が見えていて、それらは一番古いもので約8000万年前のものだそう。8000万年前とはつまり、恐竜が生きていた時代のもの。ここまでくると、もう想像力を追いつかせるのに必死です。甑島のシンボルと言われているナポレオン岩や、一度に5つの岩礁を視界に捉えることのできる金山海岸を途中に挟みながら、次々と奇岩・断崖を巡っていきます。帰路に差し掛かるまではほぼ休む間も無く、2時間近い時間もあっという間に過ぎていきました。

天気にも恵まれ、大満足だった断崖クルーズ。このクルージングを経ると、甑島という土地がとてつもなく長い時間をかけて出来上がってきたことを実感することができます。ちなみに下甑島では、鹿島地区の地層からなんと恐竜の化石も発見されており、鹿島支所の恐竜化石等準備室では関連した化石資料を見ることができます。クルージングのあとなら感動もひとしお。お時間に余裕のある方はぜひ合わせて行ってみてください。

島で楽しむ武家屋敷の街並み
さて、大自然がつくりあげた絶景を楽しんだら、島の人々がつくりあげた美しい景色も合わせて楽しみましょう。摩川内市本土側の入来地区と同様、上甑島にも江戸時代の武家屋敷が広がります。きれいに積み上げられた玉石垣がここでもやはり美しく、私たちの目を奪います。細く伸びた道の先からは、遠くを歩くお母さんたちの楽しそうな会話が玉石垣に沿って聞こえてきて、なんだかほっとした気持ちに。下甑島でも、上甑島より広い範囲に武家屋敷が広がっていて、こちらのほうがどちらかというと南国らしい雰囲気。どちらの武家屋敷群も、甑島ならではの景色。ぜひカメラをもって歩いてほしい場所のひとつです。

そうそう、そんな素敵な武家屋敷の中に佇むおすすめの宿もここでご紹介。上甑島の武家屋敷群の中にある「こしきの宿」は、元地域おこし協力隊の柴田美咲さんと地域の方が一緒に、古民家を一から改装した一棟貸しの宿。かわいい雀とカノコユリがあしらわれた欄間、タイル張りのかまどやお風呂。感性豊かな可愛らしい内装は、見ているだけで作り手の楽しさが伝わってくるようです。基本的に食事は自炊になりますが、希望があれば島の食事処からお刺身などの料理を取り寄せることもできます。家族連れや大学のサークルなど、ここでは大人数でワイワイするのが楽しそうですね。

漁師のお店で、朝獲れ海の幸。
たっぷりと島の美しい景色を堪能したあとは、豊かな自然が育んだ島の味覚をば。甑島といえば、やはり楽しみなのは海の幸。お昼ご飯にと梶原さんが案内してくれたのは、2016年夏にオープンしたこしきの料理屋海聖丸。現役の漁師であるご主人の日笠山了盛さんが獲ってきた海の幸を、新鮮なままに味わうことができるお店です。私たちが注文したのは、海聖丸おすすめの「大漁盛りセット」。島の特産であるきびなごをはじめとして、旬の魚や貝をたっぷりと味わうことのできる贅沢なセットです。まずはご主人自慢のきびなごをお刺身で。一般的にきびなごの刺身は頭とワタと背骨をとった「開き」のような形で提供されることが多い中、海聖丸の新鮮なきびなごはワタと頭だけをとった「開かない」スタイル。一味を振ったお醤油につけて口へ運ぶと、弾力のあるプリッとした歯ごたえのあとにきびなごの甘さが口の中いっぱいに広がります。これまで味わったことのない美味しさに、思わず舌鼓。口の中でほろりととろけるようなしゃぶしゃぶ、ほくほくとした香ばしさが楽しい網焼き。どの食べ方もきびなごの美味しさが際立ちます。足が早いきびなごを、ここまでの鮮度で味わうことのできるお店はなかなかお目にかかれません。もちろん、この日一緒にいただいた島の名物タカエビとタカセ貝も絶品。「普段自分たち漁師が食べているような鮮度のいい魚を食べてもらいたい」というご主人の言葉通り、新鮮な海の幸を存分に堪能することができました。甑島の旬の味わいを楽しみ尽くせる海聖丸。いろんな季節に訪れたいお店です。
花開く、平嶺さんと島アロエ。
美味しい海鮮をいただいたあとは、上甑島にあるギャラリーヒラミネでひと休み。こちらは、島民なら誰もが知っているという93歳のスーパーアーティスト平嶺時彦さんのギャラリーと、島の「あるもの」を使ったカフェが一緒になった、ちょっと不思議なお店。80歳にして創作活動を開始したという平嶺さんのギャラリーには、これまで製作してきた作品が所狭しと展示されています。絵画や立体、はたまた2Dと3Dが融合したような独創的な作品を次々と作り上げる平嶺さん。「19歳のときにガワシロー(河童)と遭遇した」などの実際(?)のエピソードを基にした作品も多数。店にいるスタッフさんの解説を受けながら鑑賞すれば、オリジナリティ溢れる平嶺さんの世界観をより楽しむことができます。

ギャラリーと併設されたカフェで提供されている島の「あるもの」とは、甑島の家々の庭先や生垣に植えられている「島アロエ」。甑島への移住者である塩田亜耶子さんが中心となって商品開発を進めたものです。カフェではドリンクやデザートでいただくことができるほか、「アロエ島」というブランドでジャムやシロップ漬けの販売もしています。薬効のあるキダチアロエは、昔から薬の代わりとして島民の身近な生活の中にあるものでした。しかし食用としての加工は難しく、食べものとして用いられることはなかったそうです。だから、商品化に成功したときには地域からの反響も多くあったそう。「島の人は、アロエがお金になるなんて〜ってびっくりしてました。誰か全然わからないんですけど、朝会社にきたら入り口にアロエがどっさり置かれてたこともありましたね(笑)」と塩田さん。苦労して加工に成功したというアロエ、せっかくなので私たちもドリンクをいただくことに。アロエ自体の味の主張は強くなく、どちらかというと食感を楽しむ感じ。プルプルとした舌触りですが、噛むと少しシャキッとするような食感。スムージーやサイダーなど、好みに合わせた飲み物でいただけるのが嬉しいですね。
晴れている日は、海の見えるテラスでお茶を楽しむことができます。機会があれば、ぜひ一度ギャラリーヒラミネに足を運んでみては。

とうふ屋は、朝を準備する職人だ。
すっかり陽も沈み、島に夜が訪れようとするころ、私たちは一軒の小さな店にたどり着きました。お店の名前は山下商店。見た目にはオシャレはカフェか、小さなセレクトショップのよう。しかし実際は、早朝からお豆腐を販売するれっきとしたとうふ屋です。商品棚に置いてあったおしゃれな小瓶を手に取ると、「それ、甑島のお土産のなかで3番目くらいに売れてるんです」。そう教えてくれたのはオーナーの山下賢太さん。小瓶には〈とうふ屋さんの大豆バター〉のラベルが。でも、なぜとうふ屋さんがバターを?

「とうふ屋の価値って一体なんだろうと考えたときに、ぼくらの原体験にあったとうふ屋さんは、朝を準備する職人だったんです。忙しい都会の暮らしの中で、朝からわざわざ豆腐を買いに行って味噌汁をつくったりできないじゃないですか。でもぼくらとうふ屋は朝を準備する職人だと考えたら、豆腐をつくることだけがぼくらの仕事じゃないと価値の変換ができた。そうやって生まれたのがこの商品なんです」。結果的に、〈とうふ屋さんの大豆バター〉は生産が追いつかないほどの人気になったといいます。「どこにも『甑島』とは書いてないんですけど、都会の人たちの日常の心地いい時間のなかに甑島産のものが普通にあって、それを入り口に甑島に遊びにいってみたいと思う人たちを増やしたかったんです」。山下さんの狙いはピタリとはまり、バターをきっかけに島に来てくれる人が絶えないそう。「看板も小さいものしかないんですけど、逆に、ここに来るのはこの店を目的に来てくれる人。だからこうやってゆっくり話もできるんです」。これまでの方法とは全く逆のやり方で甑島を盛り上げる山下商店。次の一手が本当に楽しみです。
とはいえ、島での生業はあくまでとうふ屋。まずは豆腐をしっかり味わわねば。そう思ってお店に足を運んだ取材翌日の朝一番、出来立てを食べた豆腐はまだ温かく、起き抜けの体に優しく染み渡っていきました。

島での濃密な時間はあっという間に過ぎ、そろそろ帰りの船へと戻る時間に。
もしお土産選びに迷ったら、おすすめしたいのは地元でつくられた「つけあげ」。東日本では「さつま揚げ」、西日本では「てんぷら」と呼ばれることの多いあの練り物、本場鹿児島では昔から「つけあげ」と呼ばれているのだそう。
「鹿児島の味付けは甘いので、それを前提に鹿児島ならではの味を楽しんでほしいですね」。そう話すのは、甑島で3代に渡ってつけあげ店を営む庵地優さん。保存料などを一切使わず手作りにこだわったつけあげは、ほっとするような優しい美味しさ。観光客だけでなく地元の方も買いに来るそうで、今や川内駅でもポスター付きで販売されるほどの人気商品です。甑島では奥さんの裕美さんが船の出発時間に合わせて、毎日港へ売りにきているそう。島の魚の美味しさと愛情がたっぷり詰まった庵地さんちのつけあげ、一食の価値ありです。

甑島の旅を終え、帰りの船上でさっき買ったつけあげをパクり。鹿児島らしい甘めな味付けを楽しみながら、思い出すのは島で出会った人たちの顔。「いつかまた会いたいなぁ」。そんなことを思いながら、一口、また一口とつけあげをほおばる帰り道なのでした。

文:高橋要 写真:市岡祐次郎

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